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ノーカントリー(NO COUNTRY FOR OLD MEN)

60_2アントン・シガー、劇中彼の背景説明が一切なされないのも言いしれぬ恐怖を誘う。彼がどこから来て、どこへ向かおうとしているのか観客には一切明かされないのである。

ボディブローのようにジワジワと効いてくる映画だ。

 ”一般人”には理解し難いメンタリティと哲学を持った犯罪者への恐怖は現実世界も同じ。「殺すのは誰でも良かった」「殺したことを後悔していない」「被害者への謝罪は…特にない」。映画の中の職業としての「殺し屋」と日本の「無差別殺人犯」。一見かけ離れたような存在のようで、「理解不能な存在」という意味では一致。できれば関わりたくないタイプの人間(でも、いつどこで、そのような輩と出逢うやも知れぬ。それが昨今の恐ろしさ。タイトルも、もはや年寄りが安穏と暮らせる国は無くなった、とも取れ、社会の変質を暗示させる)。しかし、その有無を言わさぬ暴力の理不尽さに、嫌悪感と恐怖を覚えながらも、劇中のトミー・リー・ジョーンズ演じる保安官の傍観者的態度に共感する(理解を示す?)人は案外多いのではないか(下手に関わると、こっちの身が危ないもんね。戦争下のような切迫した状況でない限り、愛する存在がいる人間は、わざわざ危険な賭には出ないと思う。たとえ意気地なしと呼ばれても。勇気ある者への賞賛は一時的なもの。その多くは、残された者の悲しみだけを残して、人々から忘れ去られてしまう)

本作は苦い後味を残すが、見応え十分。コーエン兄弟恐るべし。

 実のところ、”一般人”と”殺人者”のボーダーも最近は曖昧なんだよね。周囲が驚くほどあっけなく両者の間にある”壁”を乗り越えてしまう人々がいる。そんな状況を「明日は我が身」と内心恐怖におののきながら生きているのが現代人なんだろうか?自分は絶対”アチラ側の人間”にはならないと確信が持てる人は、今の日本に果たしてどれだけいるのだろう?

◆映画『ノーカントリー』公式サイト:http://www.nocountry.jp/
◆映画データ:http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=328975 (cinemaonlineより)

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以下はネタバレにつき、映画をご覧になった方だけ読まれたし。

【つっこみどころ】

冒頭、殺し屋アントン・シガーが後ろ手に手錠をはめられ保安官事務所に連行される。その後の彼の無敵ぶりを見たら、なぜ彼が保安官ごときに逮捕されたのか理解できない。この保安官事務所における、彼の極悪非道ぶりをまざまざと見せつける殺害シーンの描写は、出口のない恐怖ショーへの導入として確かに効果的ではある。

【ついでながら、気になること】

「とにかく誰かを殺したかった」―最近ニュースで耳にした、あまりにも理不尽な殺害動機(厳密には”動機”とは言い難いが)。同じ様な台詞を最近、米ドラマ『クリミナル・マインド FBI行動分析官』で耳にしたばかりである。ドラマでは殺人衝動の妄想に悩む少年が、その抑え難い衝動を結果的に他者ではなく、自分自身に向けた(→自殺をはかる)のだった。

従来はドラマの少年のように絶望の果てに自傷に至っていた人間が、今や他者への攻撃(殺傷)へと走るケースが珍しくない。自らの破滅に、自分とは無関係な人間を道連れにする。理不尽な殺人は自分を受容しなかった社会全体への究極の復讐とも見てとれる。そのターゲットにされた被害者は堪ったものでない。何が人間を変質させたのだろう。犯罪者個人を断罪したところで解決できる問題ではないような気がする。寧ろ社会全体で、そうした殺人者を生み出した土壌としての責任を負う覚悟が必要なのかもしれない。

【あの気になる髪型についてのメモ】
2008.5.2付日経夕刊13面コラム「モードの方程式」(中野香織氏)に、ハビエル・バルデム演じるシガーのあの独特な髪形についての言及があった。それによれば、ヘアードレッサー、ポール・ルブランは「十字軍」にヒントを得て、あの殺し屋ヘアーを考えついたと言う。「十字軍の騎士とイスラム教徒が殺し合う時代の髪形。時を超えた危険な雰囲気をハビエルに与えたかった」と英「ガーディアン」紙に語ったらしい。意外なルーツにビックリ。

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