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『リトル・ミス・サンシャイン』(米、2006)

走り乗れっ、ポンコツ・ワゴンへ!
Photo_2
「市場原理主義」とか、「成果主義」とか、「勝ち組」とか、「負け組」とか、イイ加減疲れませんか?今の世の中!

そんなに常に競争にさらされて、精神的に緊張を強いられ、たとえ努力して、運にも恵まれ、勝ち馬」に乗れたとしても、それが未来永劫保障されるわけでもなく、自分の努力の甲斐もなく転落することもあるわけで…長らく農耕文化で、互いに助け合うことで生きて延びて来た大多数の日本人には、今はかなり辛い世の中になっていると思う(こう書くと、自ら「負け組」宣言しているようなものだね・苦笑)

自分が生き抜くことに精一杯だから、人々の心から他人を思いやる余裕さえ失われつつある。思えば戦後最も物質的には豊かであるはずなのに、すっかりギスギスした世の中になってしまったものだ。

単に「弱肉強食」「自然淘汰」なら、そこいらの動物と何ら変わりないじゃないないか?否、寧ろ今の人間の強者は、自然界に生きる動物達より弱者には情け容赦ない。某日「NHKスペシャル」では厳しい自然環境の中で、動物達が懸命に助け合う姿が映し出されていた。南極ではブリザード吹きすさぶ零下60度の中、100匹以上のオスの皇帝ペンギンがハドルと呼ばれる体勢でひと塊になって体を寄せ合い、孵化前の卵をお腹で温めていた。北極では麝香牛の群れが、その幼子を円陣で囲って狼から守っていた。彼らは皆、自分達の種を絶やすまいと必死の行動をとっている。

それからしたら、今の日本人は種を絶やさんばかりに、大人が子供に対して虐待をしたり、暴行を働いたり、殺戮したり、助かる命をないがしろにして死に至らしめたりと、その行動からは種の保存本能さえ失われつつあるように見える。

しばしば言われていることだが、「映画は時代を映す鏡」。そして「社会の実相を描き出すキャンバス」でもある。この映画が作られた背景には、「市場原理主義」「成果主義」「勝ち組」「負け組」の本家本元の米国でも、その熾烈な競争社会に異を唱える人々の声が大きくなったことがあるのだろうか?そもそも一握りの「勝ち組」に対し、大多数の「負け組」である。小さな声も数が集まれば大きな声になるはず。

本作は、その米社会で「負け組」に位置する家族の物語。

Photo_3 ビューティ・コンテスト優勝を夢見る7歳の少女オリーブ。ちょっと太めな体型で、大きな眼鏡がちょっとダサイ。しかし心優しく愛らしい彼女の、「リトル・ミス・サンシャイン」コンテストへの”棚からぼた餅”的本選出場が決まったのを機に、崩壊寸前の「負け組」家族の再生物語が展開して行くのだ。

人生で「勝ち組」になることに大きな価値を置くオリーブの父親。自らが編み出した「成功のステップ」論の出版化で一攫千金、社会的名声の獲得を目論んでいる。常に彼の口をついて出るのは「勝たなきゃダメなんだ」。しかし自ら、その成果を体現していなければ、立派な理論も説得力を持たない。

他に、老人ホームを追い出されてしまった好色家の祖父。学者としては一流ながら、抜き差しならぬ事情で、一家と同居することになった叔父(母親の兄)。願掛け?に、自室内で体を鍛えながら「無言の行」を何ヶ月も続けている15歳の兄。そして、こうした個性的な面々を愛情と忍耐でかろうじて束ねている母親、という面々。

Photo_4 「負け組」とは言え、写真の室内、そんなにみすぼらしくもない。しかし、やっぱり気になったのは家族の夕食の場面。う~ん、これは侘びしいぞ。テイクアウトのフライドチキンと野菜サラダにスプライトなんて。「食」に貧しさが顕われている(その昔読んだ桐島洋子の『淋しいアメリカ人』中の、マクドナルド創業者宅の冷蔵庫についての言及がふいに思い出された。その中は、マクドナルドの店舗で提供される商品の栄養バランスとは対極の、豊かな食材に溢れていたのである。「食」は本当の意味での「豊かさ」の指標なのかもしれない)

一家はカリフォルニアのビーチサイドにあるホテルのコンテスト会場を目指して、アリゾナの自宅からポンコツ車を走らせるのだが、道中でさまざまな出来事に見舞われる。その出来事のひとつひとつに涙と笑いとペーソスがあって、最後まで目が離せない。 

いわゆるロードムービーなのだが、愛情の深さは人のどのような振る舞いに顕れるのか、人間にとって何が本当の幸せなのか、旅路でのハチャメチャな家族の一挙手一投足に、時には笑い声をあげながら、教えられたような気がした。数年前に起きた「ジョンベネちゃん殺害事件」を思い起こさせる過熱ぎみとも言える美少女コンテストへの皮肉もたっぷり効いて、「勝ち組」「負け組」という括りのバカバカしさ、虚しさが感じられた一家なりの幸福な結末?が後味爽やかだった。

◆映画『リトル・ミス・サンシャイン』データ:http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=326063

◆リトル・ミス・サンシャイン公式サイト:http://movies.foxjapan.com/lms/

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