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2007年7月

ボルベール<帰郷>(原題:VOLVER)

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『オール・アバウト・マイ・マザー』
『トーク・トゥ・ハー』
そして、本作 『ボルベール』

 ペドロ・アルモドバル監督の女性賛歌3部作の最終章を飾るに相応しい作品だと思う。始まりはサスペンス・タッチ。全編を彩るが鮮やかで生々しい。粗筋は敢えて知らずに見た方が楽しめると思うのでここでは紹介しない。

 母娘3代に渡る因果に、運命の残酷さを感じた。懸命に生きているのに報われない彼女達。しかし、その過酷な運命を受け入れ逞しく生き抜く姿は、人生賛歌とも言うべき味わいに満ちている。

 主人公のライムンダを演じるペネロペ・クルスは真性のいい女になった。小悪魔的な魅力に円熟味も加わって(と言っても、まだ33歳!容貌的には監督の要望に応えて”つけ尻”まで装着しお尻を大きく見せたと言う)、今回の母親役も板についている。姉のソーラ、娘のパウラ、故郷の伯母、その隣人のアグスティナなど、彼女を取り巻く女達も皆、ひと癖もふた癖もあってそれぞれに存在感があり目が離せない。その卓越した演技で、全員揃ってカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を獲得したらしい(他に最優秀脚本賞を受賞。ペネロペは米アカデミー賞で堂々主演女優賞にノミネートされた)とにかくこの映画は女が主役。こんなに男の影が薄い映画も珍しかろう。


60_6  故郷ラ・マンチャ(アルモドバル監督自身の故郷でもある)に吹きすさぶ強風、故郷の善良な隣人アグスティナの言動、ことあるごとに「祖父にそっくり」と言われる娘パウラの目元など、散りばめられた伏線が、物語が進むにつれ収斂されて行く脚本の見事さには思わず拍手。

 見応えのある、哀しいけど人生の滋味たっぷりな、そして「人生何があろうと生きて行かなければ」と励まされる作品とでも言おうか。私自身が40代の女だからこその感想だろうけど。結構深刻な内容なのに、スペイン人ならでは?のあっけらかんとしたラテン気質にも救われている。

 タイトルのVOLVERは元々アルゼンチン・タンゴの名曲で、劇中でもペネロペが”フラメンコの最も自由な形式ブレリーア”(と言うらしい)のリズムで艶(つや)やかに歌いあげる(実際の歌唱はエストラージャ・モレンテによる)。この曲の初出は、アルゼンチン・タンゴの創始者でこの曲の作者でもあるカルロス・ガルデルが主演映画で自ら歌ったもので、その後のスペイン歌手の歌唱によって今やスペインでも愛されている曲らしい。世界を巡った末に故郷に戻る男性歌手の心情を綴った歌詞らしいが、映画のストーリーにも絶妙に嵌っている。他に、本作同様”母娘の物語”であるルキノ・ヴィスコンティ監督作品『ベリッシマ』を劇中でさりげなく登場させるあたり、監督の道具立ての巧さが光る。

■映画『ボルベール』公式サイト:http://volver.gyao.jp/
■映画『ボルベール』データ:http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=325137
■映画『ベリッシマ』データ:http://www.allcinema.net/prog/show_dvd.php?num_sid=435710  
■挿入歌『VOLVER』の歌詞(西・英版):http://www.planet-tango.com/lyrics/volver.htm

【おまけ】 
 昔、半年ほどスペイン語を習ったことがある。講師は大学教授で、彼の口癖は「スペイン語は詩的で美しい」というものだった。確かにスペイン語をはじめとするロマンス語は、英語に比べて抑揚が柔らかで、あたかも歌を歌うかのようだ。またこうも言われた。「母国語として最も世界で話されている言語はスペイン語である」と。結局スペイン語はさわりを学んだだけで終わったが、講師の口癖はスペイン語の魅力的な一面として私の脳裏に刻みこまれた。

 それから何十年も経った数年前にはイタリア語を週に1回の割合で3年間学んだ。これは自分なりにマジメに勉強したので、現地に旅行目的で滞在する分には不自由なく過ごせるほど話せるようになった。するとイタリア語とスペイン語は同じロマンス語族で親戚のようなものだから、次第にスペイン語も何となく分かるようになった。構文や文法は似ているからね。後は発音を微調整するだけ。自宅にはイタリア語辞典と共にスペイン語辞典も置いてあるので、折に触れて2冊同時に使って比較しながら単語を覚えたりしている(ついでにフランス語も)。

 その成果を試す意味でもスペイン映画を見るのは楽しい。今回、意外なほど聞き取れ、理解できたので、スペイン語にも益々興味が湧いて来た。もちろんスペイン映画の魅力はそれだけでなくて、スペインならではの大らかな人々の気質や独特の美意識でもあるけど…さすがミロやダリやピカソを生んだ国だけのことはある。

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