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しゃべれども しゃべれども

50_1  まず見終わって、寄席に行きたくなった。これ、夫婦共通の思い。(結構年季の入った)ジャニーズ系アイドル?の国分太一がかなり頑張って、主人公の二つ目の落語家を生真面目に演じている。たぶん寄席や独演会で生の落語を聴いたことのない人から見れば、その噺家ぶりは十分満足の行くレベルに達していると思う。素人の国分がよくぞここまで、と感心することであろう。

 しかし生の落語を何度も聴いた者には、最初から最後まで肩に力が入った彼の一生懸命さが、「ちょっと違うんだな」ということになる。やっぱり落語には”遊び”がなきゃ。飄々として掴み所のない”軽さ”がなきゃ。でもまあ、この作品は落語の出来不出来を問う話ではないからね。

  何と言ってもこの作品は、ひょんなことから落語教室を開くことになったうだつの上がらない二つ目の落語家と、それぞれに悩みを抱えた3人の”教え子”との交流を描く東京の下町を舞台にした、落語を肴に展開する人情物語ですから、あくまで(と言っても、見方によっちゃあ、落語もまた主役と言えるんですけどね。もちろん、国分さんの頑張りは認めていますとも!あ…よくよく考えてみれば、国分さんはそれで良いんですね。彼が巧い噺家だったら、そもそもこの物語は成立しない)

Photo_20 ”遊び”という点では子役の森永悠希くんが上手(うわて)ですね。彼は噺を自分のものにした上で自分自身も楽しんでいる。そもそもオーデションの段階で、唯一人「まんじゅうこわい」をそらで覚えていたのがこの森永くん、という逸話が残っているほどだから、只者じゃない(笑)。とにかく一席演じる彼の、さも楽しそうな様子に釣られて笑ってしまう。微笑ましいとでも言おうか。設定では、大阪からの転校生ということになっているが、その実バリバリの浪速っ子らしい。ここでも大阪弁独特のリズム、軽妙さが生きている。 劇中、彼が落語のお手本にしたのが、今は亡き桂枝雀いささかオーバーアクションの、在りし日の彼の一席が、映画の中でちょこっと拝めるのは何だか得した気分。同時に上方落語が彼を失った哀しさ、寂しさも感じて切ないよ。 

 映画には”華”もなきゃ、と言うことで、モデル・女優としても活躍する香里奈(←ちなみに彼女の映画初主演作『深呼吸の必要』も良いよ♪)が出演。クール・ビューティな彼女が、口の利き方を知らないぶっきらぼうな美女を演じて、結構楽しい。周囲からは高飛車だと誤解されがちな、こういう美女、案外身近にもいそうだ。ただ口下手なだけなのに。仏頂面の松重豊も、不器用な男の代表としては、やっぱり必要な存在だろう。そして主人公の祖母と師匠を演じて脇をキリリと固め、若手演者を助けるのが、ベテランの八千草薫伊東四朗。この二人がいなかったら、この映画は締まらなかっただろうな。その存在感と手堅い演技はさすがだ。正に人生の酸いも甘いも噛み分けた人ならではの包容力で、不器用な若者達を温かく見守っているという役柄にぴったり。

 本作は、97年度『本の雑誌』ベスト10 第一位に輝いたという小説(佐藤多佳子作)の映画化。原作者の佐藤さんはこの小説を書くまで、もっぱら落語を読物として楽しんでいたというから意外だ。落語は、噺家によって初めて”生命(いのち)”を与えられるものだと私はずっと思っていたから(もちろん、あくまでも私見)。監督は平山秀幸。平山監督と言えば、原田美枝子主演の『愛を乞う人』(←この作品は見応えがあった)を撮った監督だ。本作は傑作とは言わないまでも、見終わった後に心が温かくなるような珠玉の一品だろうか。そして思わず寄席に行きたくなってしまう、落語の魅力を伝える一品でもある。

 蛇足ながら、やはり噺家は落語を耳から覚えるようだ。だから言葉(の意味)は知っていても、その漢字は書けなかったりするのだろう。 

■映画公式サイト:http://www.shaberedomo.com/

Photo_23  そんでもって、久しぶりに夫婦で寄席に行って来た。寄席はやっぱり楽しいや。なんたってインタラクティブですから。噺家に絡まれたり(笑)、正楽師匠にリクエストして”紙”を切って貰ったり(左図がそれ。「何かリクエストがあればお切りします」と言われ、「あじさい」をリクエストしたら、ものの2~3分で仕上げてくれた。まさに名人芸!先着3名様?まで。欲しかったら、できるだけ前の席で力強くリクエストすること(笑))…平日の昼間だと言うのに、上野広小路の鈴本演芸場はほぼ満席に近い大入りだった。噺家のひとりが枕でこの映画について触れていたから、やはり映画の宣伝効果は大きいのだろう。原作小説もこれでまた注目されて売れているのではないだろうか?

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映画(2007年)」カテゴリの記事

コメント

cyazさん、TB&コメントをありがとうございます。
このところ小説の映画化が多いような印象があります。原作ファンは映画の仕上がりに不満を抱くことが多いようですが、こと本作に関しては合格点だったのですね。これは映画の後に小説でも楽しめそうですね。

十河クリーニング店のロケ地ですか。ロケ地を訪ねる楽しみっていうのもありますね。そう言えば、公式サイトにはロケ地の地図がありましたね。

投稿: Hanako | 2007年7月 2日 (月) 17時20分

Hanakoさん、こんにちは^^
TB&コメント、ありがとうございますm(__)m
落語を通じて浮き彫りにする人間模様とその明暗は、原作よりもやや艶っぽく描かれ良かったと思います。
余談になりますが、先日香里奈演じる十河の実家の設定だったクリーニング店(ロケ地)を都電の中から見て来ました(笑) 映画のまんまでしたよ!

投稿: cyaz | 2007年6月25日 (月) 12時30分

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» 『しゃべれども しゃべれども』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 『しゃべれども しゃべれども』□監督 平山秀幸 □脚本 奥寺佐渡子□原作 佐藤多佳子(「しゃべれども しゃべれども」新潮文庫刊)□キャスト 国分太一、香里奈、森永悠希、八千草薫、伊東四朗、松重 豊 ■鑑賞日 5月26日(土)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★★ (5★満点、☆は0.5) <感想> この映画を観る前の日に原作を読み終えた。原作は1997年度“「本の雑誌」ベスト10”の第1位に輝いた佐藤多佳子の長編小説で、映画化されると聞いて読み始めた作品でした。 原... [続きを読む]

受信: 2007年6月15日 (金) 17時33分

» 映画「しゃべれどもしゃべれども」 [happy♪ happy♪♪]
情緒あふれる下町の風景と落語を通しての人間模様がゆったりと描かれていて作品としては良かったと思います ただちょっと残念だったのがキャストの演技不足と ラストシーンは別に要らなかった気が・・・ でも落語のおもしろさをもっと楽しみたいと思わせてくれた 映画でした ○公開中 ... [続きを読む]

受信: 2007年6月15日 (金) 21時04分

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しゃべれども しゃべれども 映画は シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、 シネ・リーブル池袋ほか全国にて5月26日公開です [続きを読む]

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