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武士の一分(2006年)

Photo_14   珍しく息子の方から時代劇映画を見たいと言い出した。キムタク主演で話題となった『武士の一分』である。これには彼なりのちょっとした理由があった。2004年に単行本の発行部数が一億冊を超えた人気漫画『スラムダンク』の作者井上雄彦氏のもうひとつのヒット作『バガボンド』に影響されて、と言って良いだろうか。

 そもそも息子と井上雄彦作品との出会いも意外なものであった。当初私の担当美容師であったK君(若干20代半ばながらプロ意識をしっかり持った腕の良い美容師です)。今や家族全員がお世話になっている。そのK君が漫画好きの息子に『スラムダンク』は必読だ!と強く薦めたことが、息子と井上漫画との出会いだった。『スラムダンク』にいたく感動した息子は、井上氏のもうひとつの代表作『バガボンド』へ手を伸ばした。そしてこれにすっかりハマッてしまったのである。

 それだけではない。今度は『バガボンド』の着想の元となった吉川英治の『宮本武蔵』を読みたいと言いだし、学校図書館にないと知るや自ら市立図書館に足を運び、貸し出しカードを発行して貰うと、分厚い単行本を借りて来て今夢中になって読んでいる。あの読書嫌いの息子が、である。

 当初は文庫本を探していたが、結果的には単行本で良かった。なぜなら単行本には豊富な(味わい深い)挿絵があり、それがちょうど頃合い良く紙面に登場して、長文にはまだ不慣れな息子には”箸休め”のようになっている。

 私は息子が漫画好きであることを嫌だとは思っていない。自分自身、子供時代には沢山の漫画を読んだのだから。ただ漫画と並行して、活字の詰まった本も読んだ。息子にもできれば同じように程よいバランスで漫画と活字の両方に親しんで欲しいとかねがね思っていた。それが思いがけない展開で実現している。

 して、映画『武士の一分』についての息子の感想はと言うと、「剣を交えるシーンが少なくてちょっと物足りない」らしい。そりゃそうだ。これは藤沢周平作品で、剣術小説とは違うのだから。藤沢作品は海外にいた時に取り寄せていた『オール読物』で当時は藤沢氏も存命中だったから、新作中編をよく読んでいた。設定は時代ものながら、作品が描いている世界観は普遍的なものであり、今にも通じるものがあった。本作でも印象が鮮烈だったのは、夫婦愛であり思いやりである。

 山田監督も本作で”平凡な日常の尊さ”を描きたかったと言われていたように記憶している。食事シーンというのは何もホームドラマの独壇場ではなく、時代劇でも日常生活を描く上で欠かせないシーンのようだ。池波正太郎原作の、岸谷五朗の主演で久しぶりにリメイクされたテレビ時代劇『藤枝梅安』でも、2時間の放映時間の間に何度となく食事シーンが出て来て印象的だった。殺人のシーンと、仲間と鍋を囲みながらほくほくと煮えた大根を食べるシーン。その対照性が際だてば際だつほど、梅安の仕事の非情さと、何気ない平凡な日々の尊さが心に沁みて来た。

 
”永遠のアイドル”キムタク出演の時代劇ということで話題になった本作であるが、私は本作を見ている間、その世界観にどっぷり浸って、主人公がキムタクであることはすっかり忘れていた(”誰を演じてもキムタク”という彼にしては比較的キムタク色が希薄。月代《さかやき》部分をきちんと剃っていないうらぶれた姿など、その弱々しさが新鮮ですらある)。妻役の壇れいの美貌と所作の美しさ、脇を固める笹野高史の好演も光っていた。

以下はネタバレ。

Photo_15  本作『武士の一分』でも、最後の最後で、”妻の手料理の味”が大きな意味を持っていて、タイトルの”一分”で主人公が守りたかったものが、実は「武士としての立場」より、「夫婦の絆」であったのだと思い知らされる。本作が心温まるしみじみとした余韻を残す、ひと味違った時代劇であることは間違いないと思う。

 

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コメント

Sakuraさん、こんにちは♪
移動中の飛行機でこの映画をご覧になったとは、偶然とは言え投稿がタイムリーなものになりましたね。Sakuraさんにとって、新しい土地での生活は、家族の絆の大切さをより一層感じる機会となるのでしょうか?その意味でも、この映画は深く心に沁みる作品となったのではありませんか?

>妻と自分の名誉ために決闘を申し込むシーン…
に関しては、巷の一部映画評では決闘の理由として弱すぎるというものもありました。私はそうは思わないですが。他人がどう思おうと、いざという時に家族の為に行動する夫は頼もしいですよ。ホント、妻冥利に尽きると思います。ウチの息子も一応若い男性の範疇に入るかなと思いましたが、どうもこの夫婦愛を理解するには幼な過ぎたようです(笑)。

投稿: Hanako | 2007年4月17日 (火) 00時14分

こんにちは。移動中の飛行機の中で見た映画です。妻と自分の名誉ために決闘を申し込むシーンが、うらやましかったのが印象に残っています。女性としては女冥利に尽きるというものですよね。^^ 若い男性にぜひ見てほしい映画だと思いました。

投稿: Sakura | 2007年4月15日 (日) 17時43分

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